アスト中本は、中国・韓国に続き、2013年、タイに進出。現地法人を設立し、2014年から業務を開始しました。その立ち上げメンバー兼責任者として、タイに赴任。ゼロから組織や仕組みをつくる段階から始めましたが、開始直後、日本とは異なる文化・歴史・価値観をもつタイ人相手に、日本のやり方は通用しないことを痛感。そこから新たな挑戦が始まりました。
「微笑みの国」といわれるように、タイ人は人懐っこくて穏やかな性格の人が多いイメージ。家族や友人を大切にしますが、それゆえ、自分や家族を犠牲にしてまで我慢して働きません。また、人は人という意識が強く、他人に対してあまり介入せず、日本以上に縦割りな社会です。このような国民性や文化、マナーを理解した上で、いかに多能工化を進め、業務改善を図るかが課題でした。
積極性・協調性など、抽象的な表現が多い日本の人事考課をそのまま取りれたのでは、なかなか行動につながらない。そこで「曖昧な言葉」を無くし、「これができれば、100バーツ増額」など具体的な内容、数字に置き換えることで、シンプルかつ明確な人事考課を考案しました。
成長支援と意思疎通を図るため個人面談を行うも、年齢、地位などの上下関係に厳格なタイにおいて、双方向のコミュニケーションは難しく、言葉もいまひとつ心に響かない状態。そこで、心の距離を縮めようと、毎日スタッフとお昼ご飯を一緒に食べるところからスタート。約3年かけて関係を構築し、意思の疎通もできるようになりました。
自己中心的な働き方から、周りを慮る働き方へと意識改革が進む中、スタッフにとって、よりよい環境を作ろうとシステムエンジニアの経験を活かし、新たなシステムを開発、導入。シンプルなロジックで使う人のストレスをなくし、視覚や聴覚を使ってチェックできるようにすることで、ミスをゼロにしました。
一番難しかったのは、スタッフの意識改革。異業種交流会などを利用してタイビジネスの先駆者に話を聞いたり、現地の教育や文化、歴史などを調べ、どうすればスタッフの心が動くかを研究したりしました。その結果、郷に入れば郷に従えの精神で、作業服を着て現場で熱血指導を行ったり、毎日一緒にお昼ご飯を食べるなど生活を共にすることで、チームの一員に。日本人管理者ではなく、仲間として受け入れてもらったことで、一枚岩になれたと思います。
今回の取り組みを通じて気づいたことは、先入観や固定概念をもって、物ごとを最初から否定したのでは、何も前に進まないということ。また、厳し過ぎても、優し過ぎても、人は育たないこと。ありのままの自分をさらけ出し、人と人としてぶつかることで、国籍や異文化の壁も乗り越えられることを実感。物流は、単にものを運ぶ仕事ではなく、お客様と一緒に改善・改革を進めることで、共に成長できる可能を秘めた事業です。このチームでなら、サプライヤーからエンドユーザーまで、みんなを笑顔にするサプライチェーンを構築できると思います。